受験に役立つコラム

保護者へのエール 第2回(3回シリーズ)

2021年8月13日
執筆:和歌山大学硬式野球部監督 大原 弘氏(インタビュー)

和歌山大学硬式野球部監督 大原 弘氏に聞く
第2回「自信と目標」編

 先日4年生に厳しい話をしました。6月に神宮球場での全日本大学選手権に出場したし、秋はもう2位でも3位でもいいと言うなら引退してくれ、下の学年に場所と機会を与えてやってほしいと。秋にもう1回神宮へ行くと決めてやるんだったら、もっと高めた練習をしないとダメだという話です。和歌山大は神宮で2試合戦いましたが、他の大学はみんなその試合を録画して和大を倒そうと攻撃パターンから何から全部丸裸にしています。今までと同じパターンでは全部読まれる。だから、これからの練習で一つでも二つでも引き出しを増やさねばならない。練習でうまくいけば次のゲームで試す。成功すれば自信がつきます。

 受験も同じで自信が大事です。では自信はどうすればつくのか。一つは経験した時ですよね。やってみないと自信はつかない。その次は成功体験。うまくいったということが大事です。そしてもう一つ。第三者の評価です。例えば子どもがテストで80点を取ったとします。結果を聞いて「80点か、よう頑張ったなあ。間違えた20点のところはやり直しときや。そしたらもっとよくなるよ」っていう保護者と、「平均は何点やった」と聞く保護者。子ども本人ができたと思っているかどうかは別として、その一言で自信になるのかならないのか大きな違いがでます。 

 野球も同じです。これまでと違う攻撃を練習で試してみて、うまくいったとします。じゃあ、失敗してもいいから今度は試合で使うよ、成功したらリーグ戦で使えるよ、というコンセンサスを高めるんです。それを繰り返すことによって自信ができる。全日本大学選手権1回戦の延長タイブレークで練習してきたダブルスチールを決め、勝ちました。そうしたら「和大すごいね。国立大が出てきて勝ったんやね。2回出場した大会で連続初戦突破したのは国立で史上初やね。」と褒めてくれる。自信がついて成功して評価される。実に気分がいいですね。

 今年は新年度が始まってからもコロナ禍でなかなか一緒に野球部の練習ができませんでした。ようやく緊急事態宣言が解除されて初めてミーティングを開いた時には、顔と名前が一致しない1年生もいました。そんな中で共通認識を持つことは大事です。目標などをちゃんと共有する。これは受験も同じです。

 中学受験を否定する方もいらっしゃいますが、うちの子供も県立中学校を受験しました。最大の目標は合格。でも最高の価値は成長だと思います。成長を望むためには、最初の段階から保護者の方と何のために受験をするのかという目標をしっかり共有しておくことが大切です。せっかく努力するのに合否だけで終わってしまうのはもったいない。そう考えると共通認識を持っておくことはとても大事です。

 後は目標に向かって頑張るわけですが、そもそも「頑張る」とは何なのか理解する必要があります。ハーバード大学には夢へ導くカウンセリングがあるんですが、そこではまず「あなたの自己実現の夢は何ですか」と聞かれます。うちの塾でもそうですが、中学受験する子どもに「君の目標は」と尋ねます。すると、どこどこ中学に合格したいですと答えますよね。ここで目標が出る。次の質問は「その目標を達成するために頑張る意思はありますか」。みんな「ある」と答えます。日本の教育はここで終わり。 でもハーバードでは、この後もう一つ質問があります。三つ目の質問は「その目標を達成するために、あなたは何を犠牲にするつもりですか」なんです。夢をかなえるには犠牲を払わないと手に入らないと欧米の教育は必ず教えます。

 少し話が変わりますが、2019年のラグビー・ワールドカップ日本大会で日本が8強入りした時、福岡堅樹選手は「全ての時間を犠牲にしてこの勝利のために頑張ってきた」と言いました。「笑わない男」と言われた稲垣啓太選手は「ベスト8を目標にやってきて4年間いろんなものを犠牲にしてきた」と。全く別に受けたインタビューで、くしくも「犠牲」という言葉を使った。エディー・ジョーンズ、ジェイミー・ジョセフと2代続きで外国人ヘッドコーチが日本ラグビーを率い、選手たちが犠牲という言葉を使うようになる一方、海外出身のリーチ・マイケル選手は「大和魂」と言う。それが一つになり、強いチームになったのでしょう。 

 犠牲という言葉が受験する子どもたちに難しいようであれば「何を我慢しますか」と言い換えればいいんです。まだ小学生であっても、まずはお父さん、お母さんが「何のために」「どこを目指して頑張るのか」を一緒に考えた上で「何を我慢するのか」話し合ってほしい。ひょっとしたらゲームするのを2日に1回にするとか。それも我慢ですよね。何か目標を達成する時には我慢がいることを伝えれば、単なる合否を決めるチャレンジだけに終わらないと思います。

 必要な努力と必要な我慢。最初は言葉だけでもそれがだんだんできてきます。それが頑張るということで、頑張る人には可能性がある。頑張ったら必ずかなうという甘いものではありませんが、それだけやった自分に誇れる物は残る。保護者が単に合否だけ見るなら、こんなリスキーなことはありません。万が一不合格になった時、子供たちに何も残らなくてもいいとは思えません。
(聞き手は毎日新聞記者・山本直)

 

第3部「家族」編につづく

 

PROFILE 大原 弘(おおはら ひろし)

1965年、和歌山市出身。京都産業大卒。学習塾(GES)運営会社で32年以上、小中高生の教育に携わっている。母校・桐蔭高校の野球部コーチを経て2008年、和歌山大学硬式野球部監督に就任。近畿学生野球リーグの3部から1部に引き上げ、2017年春に初優勝。同年の全日本大学選手権8強。21年も優勝した慶応大に2―4で敗れたものの16強入りを果たした。

 

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