受験に役立つコラム

保護者へのエール 第3回(3回シリーズ)

2021年8月13日
執筆:和歌山大学硬式野球部監督 大原 弘氏(インタビュー)

和歌山大学硬式野球部監督 大原 弘氏に聞く
第3回「家族」編

 これまで受験について、合否だけにこだわるのではなく、目標に向けて頑張るということ、家族や塾などを含めて共通認識を持つことなどを大事にしてほしいとお話してきました。もう一つ大事にしてほしいものがあります。それは知性です。受験を通して学力を高め、知識を獲得することに加え、知性を身につけることが子どもにとって大きなメリットになると思います。あれだけ頑張って第1志望に合格したのに入学してみると「こんなはずじゃなかった」と感じる生徒が出てきます。それは目標の持たせ方が間違っていたのかも知れませんし、学力、偏差値、得点にばかりこだわった結果なのかもしれません。おそらく学校側も、知性というものが人として大事だと捉えているはずです。簡単ではありませんが、知性を兼ね備えた学力も高い人かどうかが問われているのです。

 コロナ禍にある今、学力や知識はオンラインの学習で済んでいるところがあります。うちの塾はもともと対面が強いのですが、今は夏休み中の「朝学」といって、早起きしてオンラインで30分勉強するとかラジオ体操のような方法も採っています。これとは別に知性を問うということ、学力と知性を両輪として捉える動きが間違いなく進むと思います。

 受験も成長のきっかけを得る機会であり、値打ちがあります。そのためには保護者も一緒に準備をしてほしい。受験したい学校のことをよく調べ、しっかりと理解することは重要です。実際そこへ子どもさんを通わせている方や卒業生に話を聞いたり、学校説明会や私立学校フェアのような催しに足を運んだりするなど努力を惜しまないことです。「受けるところは決めているんだから」という方もおられるでしょうが、そうやって受験に臨むということを子供と一緒に経験する、家族みんなで考えるということが必要だと思います。

 繰り返しになりますが、そうした準備の中では、目的を明確にするよう心掛けてください。もちろん合格が最大の目標ではありますが、目的を曖昧にしておくと不合格になった時、慌てふためくことになりかねません。不合格になったから全てダメだったというのではもったいない。そこまで積み重ねてきたものはマイナスでも何でもないし、誇れるものです。合否が出るのは最後のちょっとしたところ。私も経験がありますが、受験も子育ての一環であることは間違いありません。

 家族で受験に取り組むことになれば、ストレスは避けられません。塾選びや家庭教師選びを含め、特にお母さんのストレスが相当大きくなります。大学受験なら本人の考え方、判断が大きくなりますが、中学受験ではお母さんの「立ち位置」のようなものが重要になります。

 交流分析の中にエゴグラムという人の心を五つに分類する性格診断法があり、私も勉強しました。保護者と接する時に心掛けているのは「交差」ではなく「平行」のやり取りをすることです。成績の数字などをきちんと把握して分析的に話をする保護者が「先生、今回のテストでは平均点がこれで、うちの子はこの点数でB判定と出てるんですけどどうでしょう」というようなお話をされます。それに対して分析を加えず「大丈夫ですよ」などと楽観的に応じると交差してしまいます。それでは人間関係がうまくいかず「あの先生は信用できない」となります。そういう保護者には「このテストの出題傾向はこうでしたので……」と説明すれば納得されるし、家庭との信頼関係を築ける。逆に天真らんまん、楽観的に来られる保護者にいきなり分析的な話をしてもかみ合いません。最初はこちらも合わせて対応し、詳しい話は後できちっとします。

 「ここなら小学5年生、6年生の2年間、自分の子どもを任せても大丈夫」と思えるところを探す。それが大事なポイントだと思います。

 知性を身につけるには経験が大事だと申し上げました。クラブ活動は知識偏重ではなく、自分の可能性を探る場所でもあります。知性はどちらかというと非認知能力みたいなもので、テストの得点で測れません。そういう○×で計れないものをクラブ活動で経験できるのではないでしょうか。机上で得た知識的な引き出しは持っているけれど、知性とかそういう非認知能力の方が弱いとなるとバランスが悪くなります。

 大学の体育会系は少し話が違うかもしれませんが、和歌山大野球部が世間からそれなりに評価されて就職もうまくいっているというのは、やはり国立大学として全国を目指す中でさまざまな取り組みや我慢したりして、そういう忍耐力のような企業が最も欲しいところを備えているからだと思います。もちろん学力も大事ですが、クラブ活動を通じ、集団でさまざまな経験をし、教室だけでは得られないものを手に入れることは大事です。スポーツに限らず、クラブ活動で仲間が気持ちを一つにする。目標の学校に合格してクラブ活動を楽しむ、また目標の学校を目指すために課外で知性を深める。素晴らしいことだと思います。
(聞き手は毎日新聞記者・山本直)

 

PROFILE 大原 弘(おおはら ひろし)

1965年、和歌山市出身。京都産業大卒。学習塾(GES)運営会社で32年以上、小中高生の教育に携わっている。母校・桐蔭高校の野球部コーチを経て2008年、和歌山大学硬式野球部監督に就任。近畿学生野球リーグの3部から1部に引き上げ、2017年春に初優勝。同年の全日本大学選手権8強。21年も優勝した慶応大に2―4で敗れたものの16強入りを果たした。

 

 

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