受験に役立つコラム

大学全入時代が到来か!?

2021年12月17日
執筆:毎日新聞社 教育事業室 中根正義氏

ますます重要になる納得の志望校選び
〜知っておきたい大学受験の新常識 第5回〜

 今年秋、大学関係者に衝撃が走りました。日本私立学校振興・共済事業団が9月に発表した2021年度入試(21年4月入学)の私立大の入学志願動向調査結果において、定員充足率が1989(平成元)年以来、初めて100%を下回り99.81%となったからです。

 入学定員より入学者のほうが少ないということは、学校を選ばなければ大学に確実に入学できるということになります。「大学全入時代がいよいよ到来したのか」と話題になりました。「入学定員充足率と志願倍率の推移」(図表1)の通り、入学定員充足率は右肩下がりの傾向がありましたが、ついに100%を切ったのです。また、かつては12倍を超えていた倍率も徐々に下がり、ここ20年ほどは7倍前後で推移していました。17年度以降、少し盛り返しましたが、これは文部科学省による入学定員管理の厳格化と今年度からスタートした大学入学共通テストによる受験生の安全志向が大きく影響しています。

(図表1)
入学定員充足率と志願倍率の推移

 入学定員管理の厳格化は、大都市部の大学への学生集中是正を目的に2016年度から行われました。各大学の入学定員とほぼ同数の人数の学生を入学させるように、文科省が求めたことがきっかけです。

 基準を超えると補助金が減額されることから、それ以前と比較して25%も合格者を絞る難関私立大も出てきました。その結果、首都圏や関西圏の有名私立大に不合格になる受験生が続出し、「浪人は回避したい」という受験生心理が中堅以下の大学の志願者増につながったのです。さらに、入試制度の変更も、それに拍車をかけました。

 では、これからの大学入試はどうなっていくのでしょうか。当連載で、これまでも指摘したことですが、18歳人口の減少期を迎え、30年代初頭には100万人を切ることが確実です。それだけに、志望校選びが今まで以上に重要になると考えられています。

 「18歳人口の推移と大学進学率」(図表2)を見ると、大学受験は激変していることが分かります。18歳人口は1992年度の205万人をピークに、現在は約4割減の117万人にまで減っています。

 大学・短大の志願者総数と入学者数の開きに注目してください。90年代初頭は大学・短大に入りたくても入れない受験生が約40万人いましたが、現在は6万人程度でしかありません。かつては受験生の3人に1人が浪人しなければならない状況だったのに、現在は浪人生といえば東大や京大などの難関大か、医学部を目指すような受験生が大部分となっています。

(図表2)
18歳人口の推移と大学進学率

 1992年度と2020年度を比較すると18歳人口は減っているのに、大学数は523校から795校と約1.5倍に増え、大学進学率も26.4%から54.1%に、入学定員も約36万人から約49万人に増えている一方、私立大の約4割が定員割れを起こしているのです。

 そして、各種データを注意深く見ていくと、意外な事実が浮かび上がってきます。

例えば、2020年度の大学入試センター試験の志願者内訳を見ると、総数は約56万人で、現役生が約45万人に対し、すでに高校を卒業している受験生は約10万人などとなっています。前出の図表では、20年度に大学・短大を志望しながら入学できなかった受験生はおよそ6万人しかいないはずなのに、センター試験では既に高校を卒業した受験生が10万人に達しており、その差は4万人となります。この差はどういうことなのでしょうか。

 予備校関係者などに話を聞くと、「大学や短大に通いながら、再受験している“仮面浪人”が相当数いる」ということなのです。つまり、一度は大学・短大に入学したものの、本意ではないまま入学したためミスマッチを起こし、改めてセンター試験を受け直そうという志願者がいたということなのです。

 その数は20年度の大学・短大入学者数の約6%にもなります。今から30年前とは比べものにならないほど大学に入学しやすくなっているにもかかわらず、4万人もの不本意入学者がいるということは、志望校選びに問題があったと言えるのではないでしょうか。

 実は、今の受験生の保護者世代は、90年代ごろの大学受験が厳しかった時代に受験生だった世代です。つまり、自身の受験体験から、「子どもに浪人はさせたくない」という思いが強く、それが子どものミスマッチの一因にもなっているとも言われています。

 保護者の皆さんに思い出してほしいのですが、大学受験といえば、その頃は入試の時に初めて大学を訪れたという人も多いことでしょう。ところが、現在は各大学がオープンキャンパスを何度も開催したり、保護者向けの説明会を開いたりするところも増えています。コロナ対策の一環として、キャンパスに出向かなくてもオンラインによる配信でキャンパスツアーや模擬授業を実施する大学も急拡大しています。

 大学入試を巡る状況は、この30年で激変し、コロナ禍がそれを加速させています。黙っていても受験生が集まった時代から、特色をアピールする努力をしなければ受験生が集まらないーーそんな時代に大学も必死です。受験生を持つ保護者は、子どもとしっかりコミュニケーションをとり、大学で何をしたいのか意向をしっかりくみ取った上で、子どもと共にオープンキャンパスに参加するなどして大学のことを知り、納得のいく志願校選びができるようにサポートしてあげたいものです。

 

PROFILE 中根正義(なかね・まさよし)

 

千葉大学教育学部卒。1987年、毎日新聞社入社。週刊「サンデー毎日」編集次長(教育担当)、教育事業本部大学センター長などを経て、現在、教育事業室。サンデー毎日時代、同誌特別増刊「大学入試全記録」などの編集に携わった。現在、国立大や私立大の外部評価委員や非常勤講師なども務めている。

 

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