●高まる私学志向!
近畿圏の中学入試は、新型コロナウィルスの第6波、オミクロン株の影響をうけ、面接の中止や保護者の入場規制、塾関係者の応援自粛要請が出るなかで実施されました。
統一入試開始日の1月15日の午前の受験者数は16,892人で昨年より187人減少しました。近畿2府4県の小学6年の児童数が3,825人減少していることが要因です。
中学受験率(統一入試開始日の午前の受験者数÷近畿2府4県の小6児童数)は9.74%(昨年は9.64%)となり、2年ぶりに上昇しました。
昨年と同じ受験率であれば受験者数が400人近く減少するところが、コロナをきっかけに私学教育への関心が高まり、5年生の後半や6年生から準備に入った受験生が増加したことで187人の減少に留まりました。
地域別で見ると、小6児童数の減少率に比例して兵庫の受験生の減少が大きく、昨年減少した大阪はほぼ横ばいとなりました。
総志願者数は62,264人と昨年よりも219人増加しました。その結果受験生1人あたりの平均出願数が3.69校と昨年の3.63校から増加し、私立中学への進学を前提に確実に合格するまでの受験となっています。
●安全志向の受験に!
今年の中学入試の一番のトピックは、これまでにない「安全志向」の受験傾向となったことです。
統一入試開始日午前の志願者数でみると、男子の難関校では、甲陽学院で66人減、大阪星光学院で22人減、女子の難関校では、神戸女学院で43人減、四天王寺で71人減となりました。逆に志願者数が増加したのが、男子校の六甲学院が27人増、洛星が40人増、女子校の甲南女子が24人増、大谷(大阪)が35人増、帝塚山学院が14人増となっており、初日午前から手堅く合格を決めていこうという安全志向が強まったことが見てとれます。
全国最難関の灘でも志願者数は34人の減少で653人となりましたが、首都圏からの志願者数は昨年より16人と逆に増加しています。減少分の多くが兵庫・大阪であったことから、安全志向となっていることの裏付けになりそうです。
大学付属校でも同じ傾向となりました。初日の午前の志願者数でみると、人気の高い関関同立系の付属校の合計では122人減少していますが、逆に産近甲龍の付属校では56人の増加となっています。昨年難化した立命館や同志社女子でその反動が出ています。
これまでにない安全志向になった要因は、無理をさせたくない保護者心理が影響していると思われます。2年続けてコロナ禍での生活を余儀なくされる状況下で、受験勉強への取り組ませ方が想定通りではなかったことから、より確実な選択へ向かったのではないでしょうか。この傾向が来年も続くかどうかが注目されます。
●2022年入試の注目校!!
昨年大幅に難化した須磨学園夙川は、志願者の総数が減少したものの、学校説明会で話されていた通り、合格者数を絞ったこともあり、全日程で倍率が上がりました。結果としてさらに難化することになったのですが、今後はこの高いレベルで定着しそうです。
こうした近年の難化傾向を受けて、同じ共学の進学校というカテゴリーへの志望校変更が増え、兵庫の三田学園や雲雀丘学園、滝川第二が注目されました。志望変更という視点であっても、各学校が持つ魅力が伝わった結果、大きく志願者数を増やしています。
コロナ禍での新コース設置で注目されていたのが滝川、東洋大姫路、常翔学園の3校です。
総志願者数で滝川が86人、東洋大姫路が33人、常翔学園が142人と揃って増加する結果となりました。新コースへの期待がそのまま数字に表れています。
いずれの新コースもこれからの時代の進学にフォーカスしており、近年伸ばしてきた大学進学実績と合わせて、「挑戦する姿勢」が支持されました。
前でも述べていますが、大学付属校でも安全志向の影響があり、関西大学中等部、甲南、京都産業大学附属の志願者数が増加しています。この3校には半進学・半付属校という共通の特徴があり、大学までの進学を前提にしながらも希望する進路によっては他大学受験に切り替えられる環境が支持されたとも言えます。
●新タイプの入試は落ち着く!?
近年増加傾向であった新タイプ(プレゼン・プログラミングなど)の入試は、今年については落ち着いた結果となりました。
コロナ禍で体験イベントの実施が難しいことから、十分に意図を伝えるのが難しいと判断されたのかもしれません。
新入試の中で今年目立っていたのは金蘭千里の中期入試(初日午後)です。昨年から引き続き国語と算数の2科目で受験できる中期B入試で26人増加したうえに、今年から導入した国語1教科受験の中期J入試と算数1教科受験の中期Mであわせて107人の志願者が加わりました。2科目または得意な1科目を選択できるこの入試は受験生には好評でした。
この結果をうけて、「得意科目選択型入試」が今後も広まっていくのか、増加傾向にある「英語入試」とあわせて、「英語・国語・算数からの選択入試」への発展も含めて注目しています。
PROFILE | 森永直樹(もりなが・なおき) |
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日能研関西 取締役。教室長、進学情報室室長、教室統括部長などを経て2017年より現職。生徒への指導や保護者へのアドバイスを行うほか、私学教育、中学受験に関する講演などでも活躍。 |