受験に役立つコラム

知っておきたい大学受験の新常識 第1回

2021年7月6日
執筆:毎日新聞社 教育事業室 中根正義氏

コロナ禍で進化したオンラインオープンキャンパス

このサイトを見てくださる読者の皆さんの多くは「子どもの大学進学などまだまだ先のこと」と思っている方が多いことでしょう。ただ、進学先や学部のことを考えるのに早すぎることなどありません。そして、その時に考えてほしいことは、「進学させたい」という学校のことをよく知ることです。安易な選択は、後々に後悔につながり、それが子どもの就職にも影響する可能性があるからです。

文部科学省の学校基本調査によると、現在、大学や短大への進学者は年間約58万人になります。ところが、せっかく入学したものの、途中で退学してしまう子どもが1割強いるとみられており、中退予防に本腰を入れる大学が増えています。

そんな不本意入学をしないようにするには、どうしたらいいのでしょうか。「名前がよく知られた大学を選べば安心でしょ」という人もいるかもしれません。しかし、この30年ほどで大学入試を巡る環境は大きく変わっています。これまでの常識は通じなくなっているのです。まずは、自分の目で見て、感じて、「この学校なら」と納得して志望校を決めてほしいと思います。

納得の学校選びをする第一歩は、まずは実際に大学を訪ねて見てみることではないでしょうか。現在、新型コロナウイルスの感染拡大でキャンパス内に立ち入ることができないところも多いのですが、学生たちの様子を観察してみるだけでも、その大学の雰囲気を知ることはできます。

大学を知ることができる最大のイベントはオープンキャンパス(オンキャン)です。実は、これからの夏休み、そして11月ごろにかけてがシーズンとなります。どこに出かけたらいいか分からないという人もいるでしょう。まずは、自宅近くの大学に出向いてみたらいかがでしょうか。気になる大学があれば、時間を見つけて家族で出かけてみるのもいいでしょう。いくつか出かけてみて、比較してみてください。

オンキャンでは、キャンパスツアーや模擬授業、進学相談会など工夫を凝らしたイベントが実施されます。今年はコロナ禍ということもあり、参加者を高校3年生に限定したり、予約が必要だったりと制約が多いのは事実です。そこでオススメなのが、各大学がオンラインで実施しているものです。

各大学とも、昨年はリアルなイベントを中止せざるを得ませんでした。受験生に学校の特色などをきちとんと伝えることができなかったという反省から、各校が今年度から本腰を入れて取り組んでいるものです。

大学のサイトにアクセスすると模擬授業やキャンパス案内を動画で見られるというものから、遠隔会議システムを使い、相談会を開催しているものまで、そのやり方はさまざまです。パソコンやスマホで気軽にアクセスできるので、ぜひ試してみてください。自分の母校があるなら、その大学の今が分かることでしょう。

ちなみに、全国の大学に先駆けて学校紹介のイベントをオンラインでスタートさせたのは東洋大学です。6年前の2015年のことです。ウェブでの体験授業を公開したのを皮切りに、17年からはウェブ会議システムを使った個別相談も始めました。海外も含め、なかなか大学まで足を運べない受験生に向けて立ち上げたものでしたが、今では体験型イベントを実施したり、チャットボット(人工知能の会話機能)を使った相談を行ったり、コンテンツも豊富で内容が充実しています。

16年からウェブでの動画配信や入試相談を行っているのは札幌学院大学です。17年には試行的に無料通信アプリ「LINE(ライン)」を使ったイベントを開催しました。現在もラインを使いウェブ相談会を実施しています。同大学によると、オープンキャンパスに片道5時間をかけて来る受験生もいたそうで、そうした負担を減らしたいと、試行錯誤をしてきたそうです。また、近畿大学では、芸術を学ぶ学生らがサイトの制作に携わり、若者目線を意識した中身にしています。

国立大で力を入れているのは山形大学です。16年から動画の配信を始め、17年から特設サイト「バーチャルオープンキャンパス」(現在は「やまがた大学ナビ!」に名称変更)を開設し、模擬授業や研究者インタビューなどの動画を配信しているほか、受験生向けに小論文や面接の対策講座などのコーナーも設けています。

コロナ禍により、私たちの生活は「ニューノーマル」とも言われる新しいスタイルに変わろうとしています。最新のデジタル技術の利活用も、そうした流れの一環であり、オンキャンにおける新しい流れも軌を一にするものです。

将来的に子どもを大学に進学させようと考えている皆さんは、大学が力を入れ始めているウェブオンキャンなども活用しながら、親子で大学進学に向けた意識を高めていってほしいと思います。

 

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東洋大のウェブ版オープンキャンパスサイト「Open Campus Web Style」。各大学に先がけて開設した

https://www.toyo.ac.jp/nyushi/event/opencampus/webstyle.html

 

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学生たちも制作に協力している近畿大のサイト「近畿大学オープンキャンパス2021」

https://kindai.jp/opencampus2021/

 

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内容が充実している山形大のサイト「やまがた大学ナビ!」

https://www.yamagata-u.ac.jp/enroll/index.html

 

※各サイトの画像は2021年6月現在のものです。

 

略歴

中根正義(なかね・まさよし)

千葉大学教育学部卒。1987年、毎日新聞社入社。週刊「サンデー毎日」編集次長(教育担当)、教育事業本部大学センター長などを経て、現在、教育事業室。サンデー毎日時代、同誌特別増刊「大学入試全記録」などの編集に携わった。現在、国立大や私立大の外部評価委員や非常勤講師なども務めている。

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